PRESS2012
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ーーー図3 摩耗状態[HRB・]HRB49HRB45HRB44図1 破損状態被加工材被加工材靭性マトリックスハイス冷間工具鋼DCXGO5GO4YK30図4 抜きパンチの材質選定表出所:大同特殊鋼㈱ (※MH51:JIS記号SKH51)図5 パンチ先端のふくれと摩耗粉末高速度工具鋼DRM1DEX-M1DRM2高強度・高靭性材へDRM3DEX20SKH40DC53MH51SKD11MH69MH55DEX60GOAMH8DEX80高速度工具鋼強度・耐摩耗性ふくれが発生ふくれが切断面に接して摩耗が進行 プレス金型の打抜きパンチで良く使われる材質は、SKD11(合金工具鋼)、SKH51(高速度工具鋼)、SKH40(粉末高速度工具鋼)があり、生産数量や被加工材の種類などで、お客様ごとに基準を設定して使い分けがされています。しかし、加工性の悪い被加工材が増えていることや製品精度の向上によりパンチの寿命が低下する事例が多々見受けられるようになり、対策を考えるときに材質の選定で悩むというお話をよく伺います。このような材質選定での悩みを少しでも解消するために、事例をあげて材質変更の目安を紹介します。※事例は一般的なもので、金型精度やプレス機精度、加工条件により異なることがありますのでご了承ください。JIS記号引張強さσc[kgf/mm2]SPCCSPCDSPCESS400S20CS50CSUS301SUS304SUS430C2600P-HC5191P-HC5210P-H表1 代表的な材料の機械的性能33323246405085705348656522201827ーー28263440615544454623ーー645628301630降伏強さ[kgf/mm2]全伸び[%]圧縮強さ・圧縮耐力(MPa)5000圧縮強さ圧縮耐力40003000DEX20DEX40SKH51SKD1120006065図2 硬さと圧縮耐力の関係出所:大同特殊鋼㈱(※DEX40:JIS記号SKH40)70硬さ(kgf/mm2)500400300200硬さ(HRC)■事例1打抜き力が高く、パンチ破損が発生する(図1)パンチにかかる荷重は被加工材の硬さや厚さに比例して大きくなり、パンチ刃先断面にかかる単位面積あたりの荷重(以下、圧縮応力と呼ぶ)が大きくなるほど破損が発生しやすくなります。よって、破損が発生しそうなパンチを設計するときは圧縮応力を計算することが重要となり、次の式より求めることができます。圧縮応力σ[kgf/mm2]=被加工材厚さt[mm]×打抜き部輪郭長さℓ[mm]            ×せん断抵抗τ[kgf/mm2]÷刃先断面積A[mm2]せん断抵抗τ[kgf/mm2]≒引張強さσc[kgf/mm2]×0.8例えば、ステンレス鋼板SUS304板厚2.0mmにφ2.5の丸穴を材質SKD11のパンチでプレス加工する場合は、次のようになります(引張強さは表1参照)。圧縮応力=2.0×(2.5×π)×(70×0.8)÷{0.25×π×2.52}=179.2[kgf/mm2]この時、パンチ材質の圧縮耐力(残留ひずみが0.2%生じる圧縮力)は図2のようになり、熱処理に問題がなければ基地の硬さに比例して大きくなります。実際、SKD11で硬さ60HRCの場合、圧縮耐力は250[kgf/mm2]となりますが、塑性変形は180[kgf/mm2]前後(圧縮耐力の70%程度)で生じるので、それ以下での設計が望ましくなります。よってこの例の場合、材質SKD11では塑性変形の発生が考えられ、圧縮耐力の高いSKH40を選択したほうが破損に対して強くなります。また、これ以外の注意点としては、パンチの力を受けるバッキングプレートは熱処理により充分に硬度を上げ、打抜き力を吸収できる厚さを確保する必要があります。これによりバッキングプレートの凹みを防止し、パンチつば部の破損を防止するとともに、パンチプレートのパンチ挿入穴の摩耗を防止します。金型構造上充分な厚さを確保することが出来ない場合は、定期的にバッキングプレートの凹みを点検し、凹みが発生している場合は平らに修正することが重要になります。■事例2打抜き力が高く、パンチ摩耗がはやい(図3)耐摩耗性が不足している場合と、その他の原因により摩耗がはやい場合があります。耐摩耗性の不足は、打抜き力が大きいことにより、通常よりも摩耗がはやく発生します。その場合は耐摩耗性の高い材料へ変更することで問題が解 決され、一般的にはSKD11→SKH51→SKH40のように材質を変更していきます(図4:抜きパンチの材質選定表参照)。その他の原因としては、塑性変形が発生する圧縮力以上(SKD11で60HRCの場合180[kgf/mm2]前後)の加工でパンチ先端にふくれが発生し、ふくれが原因で摩耗がはやく発生することがあります(図5)。この場合の対策としては圧縮耐力が高い材料に変更します(図2)が、特にコーティング処理をしたパンチではパンチ刃先のふくらみがコーティング膜に亀裂をつくり、膜剥離につながるので余裕のある材質選定が望まれます。この問題は、材料が硬く被加工材にあいた穴がパンチ外径よりも大きくなる場合はあまり顕在化しません。しかし、被加工材にあいた穴がパンチ外径と同じか小さくなる場合は顕著に問題が表面化します。1154Hv172Hv175Hv165Hv156Hv205Hv205打抜きパンチの材質選定

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